嗤う伊右衛門

2004-01-30の日記で書いたばかりですが、公開初日に観に行ってしまいましたよ、「嗤う伊右衛門

TVスポットも一週間程まえにやっと始まった位なのでそれほど混んではないだろうとは予想していましたが、その予想に違わずかなり空いていました。そもそも上映館数が少なくてわたしがいつも利用するシネコンではやってなかったので今回は始めてのシネコンでの鑑賞でした。

ではまずは誉めましょうか。小雪が綺麗。岩役なので顔に疵痕があり右目は白くされていますが(カラコンを使ったのでしょうが瞳孔部分だけ黒い。ちょっと手を加えて全部白くできたんじゃないでしょうか)そんなものはものともしない美しさです。

それからやはり台詞の美しさ。原作を読まずいきなり観ると漢字が浮かばないこと請け合いの難易度の高い日本語ですが、小雪と唐沢さんの掛け合いで流れるような言葉の応酬を聴いていると日本語って美しい言語だなぁと実感できました。

あとカメラワークがちょっと変わっていましたね。いくつかのシーンで、カメラの存在を意識した演出というか、本来ならばカメラがないからあり得ないはずの挙動が入り込んでいる(多分わざと)ということがありました。川のシーンで役者は誰も動いていないのにカメラが移動するとカメラマンが動くときの水音がそのまま入ってたり、役者が脱ぎ捨てた着物がカメラに引っかかってレンズを隠したりとか。

で、後はもう文句しか浮かばないのですが(笑)。

まず演出がややエログロに過ぎてわたしの好みではありませんでした。まあ監督が蜷川幸雄ですから覚悟はしていましたが。特にグロのほうが、安っぽいスプラッタみたいで……。どうせやるならもうちょっと見せ方を考えて欲しかった。

それから音楽。ジャズ風のBGMが多くて時代劇っぽくありませんでしたがわたしはそれはそれなりにイメージにはまって良かったと思います。ただ許せなかったのは、クライマックスの伊右衛門が梅と喜兵衛を斬るシーンで、ほとんど間を開けずに同じ曲を単純に使い回していたことです。観ていて凄く違和感を感じてしまいました。

それと脚本ですが、原作との細かい違いはいろいろありはしますが、伊右衛門が梅を斬るシーンのシーケンスが違っていたのが一番良くなかったと思います。原作では子殺しの断罪の言葉と共に一刀のもとに逆袈裟に切り上げて即死、というシーンなのですが、映画では最初の一刀で蚊帳越しに服だけを斬り、梅のバストトップのショットを挟んで胸を突いて即死、となっていました。原作で伊右衛門が梅本人にも何が起こったのか分からないくらいの俊速の抜刀で屠ったのは慈悲のためだと思うんです。いかな理由があれ罪のない我が子を殺した梅に対し、伊右衛門は喜兵衛のもとか、実家に戻れと見逃そうとしています。それは梅の悲惨な境遇が彼女の罪の根元にあることが分かっていたからでしょう。だから彼女がその選択を拒んでもせめて苦しませず一瞬で殺すことが伊右衛門なりの慈悲だった、その伊右衛門の人柄があのシーケンスには表れているので、とても大切なシーンだと思っていたのですが、映画では見事に裏切られました。多分梅役の女優のポロリシーンの為だけに利用されたんでしょうね。ガッカリ。

全体的に予算少なかったんだなー、と伺える映画でした。DVDになったからといって観ることもないだろうし、まあ観ておいて良かったかな、というところでしょうか。