虹の家のアリス

不思議の国のアリス」をモチーフとした書籍は、小説に限らず様々なジャンルに渡ってかなり普遍的に存在しています。

数学(アリスと旅する不思議な「数」の物語―10の童話で数学センスが身につく)、量子力学(量子の国のアリス)(しかも量子力学のアリスは 量子の宇宙のアリス―現代科学が開いた新しい世界を体験する 双子です)から生命倫理(クローンの国のアリス)に暗号技術(暗号技術入門-秘密の国のアリス)と、科学の分野を紹介するためにアリスはしょっちゅうそれぞれに不思議な世界に"出張"させられています。

虹の家のアリスは加納朋子さんのアリスシリーズ短編集の第二弾です。

この作品の場合は「不思議の国のアリス」の内容に時々触れることがあるものの直接関係があるわけではありません。ただ主人公(語り手)仁木の助手である市村安梨沙の名前やその雰囲気(特に序盤は)がアリスからきているのは確かでしょうが。
加納朋子さんといえば「ななつのこ」「魔法飛行」の入江駒子シリーズや「掌の中の小鳥」のような比較的ほんわかした(あるいは切ない)雰囲気のストーリーに交えてごく地味な(普通の推理小説に比べれば、ですが)日常的な謎を解くという作風が印象に残る作家さんですが、アリスシリーズもやはりほんわか系の作品集になっています。

しかしやはり主人公仁木が私立探偵ということもあって謎の方はそれなりに謎らしくなっております。もっともこれでも仁木氏にとっては少々物足りない様子ですが。探偵助手兼お茶くみ担当の安梨沙は、当初は作中で仁木も言うように天使のようなちょっと特別な少女のように描かれていますが、次第にしたたかさを備えて成長していくのが見て取れます。改めて見直してみると、実は序盤のエピソードでは安梨沙についての描写というのは意外に少ないのです。登場人物が少ない上、一応"探偵役"なので印象はそれなりに強いのですが、あまりその内面を覗かせるようなことはないのでした。これも彼女がずっと『他人の幻想を演じていた』ことの控えめな表現だとしたら、これは素晴らしい描写力といえるでしょう。

私はうっかり「虹の家のアリス」から読んでしまいましたが、一応シリーズものでこれの前に「螺旋階段のアリス」があるのでこちらから読んだ方がいいかもしれません。また巻末の作品リストを観ると入江駒子シリーズの第3弾「スペース」が出ていたようです。でもよく見ると書籍ではなくe-Novelsという電子媒体での販売による作品になっているようです。うーん、情報が電子媒体で購入・閲覧できるのは嬉しいんだけど、こういう気に入った作家さんの小説とかはできれば書籍の形で持っていたいものですよね。