コズミック

コズミック流 (講談社文庫)

コズミック流 (講談社文庫)

清涼院流水という作家の(一応)推理小説で、第2回メフィスト賞受賞作品でもあります。

はっきりいって個人的には清涼院流水という作家は嫌いです。見た目も生理的に受け付けない部分がありますし、作品の中にも厭な部分は散見されます。傲岸不遜な態度が文章から滲み出てくるようですし、他の作家さんへの批判とすらいえない嫌がらせじみた悪口が作品の中に織り込まれています(コズミックでは後半の大量の殺人被害者の名前が有名な作家の名前をもじっています)。このあたりは目に余るというか、まともに相手にしたくなくなる雰囲気を発しています。
ただ作品を手にすると「作家が嫌いでもその作品に敬意を払わざるをえない」という場合もあるということのわたしにとっての好例といえます。

清涼院流水の作品は「流水小説(または大説)」という新しいジャンルを形成するのだそうです。確かにコズミックを始めとする代表作を推理小説・ミステリその他どれかのジャンルに当てはめるのはしっくりこないと思います。推理小説としてはこのトリックは無茶苦茶すぎます。特に本格推理ものの愛好家は絶対この人の作品を読まない方がいいと思います。怒りで脳の血管切れますよ。反則技とかアンフェアとかそういうちゃちなレベルではないので。あえていえば叙述トリックの一種ともいえますが。文章力のうち、情景描写は著しく幼稚で耐え難いのですが、この作家は本質的にはパズラーなのだと思います。しかも言葉遊びに近いです。各章の頭文字を並べるとメッセージになってるとか、登場人物のアナグラムがヒントになってたり、そういう小細工が随所にあります。たぶん読んだだけでは気がつかないのがまだ潜んでいるのでしょう。

こういう小細工も好きではないのですが、それでもこの作品だけで詰め込まれているプロットは普通の長編が10〜20編は書けそうな程で、それを1冊にまとめ上げた上にいろいろ細工を忍ばせているのですからかなりの労力と情熱をつぎ込んでいることは確かでしょう。この点でやはりこの作品には評価すべきところもあると思います。