- 作者: 神林長平
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1996/06/01
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神林長平の長編。再版された新装丁版を購入。Amazonの書影は古いままですね。
しかしこれはいつもの神林作品と同じだと思ってとりかかると驚く。傑作でした。
後で書く。
短かく書く。
言葉の魔術師、神林 長平。「機械と人間」というテーマによるハードSFも書く一方で、「言葉」と「認識と現実」をテーマとしたメタフィクション的な作品を手掛ける作家さんです*1が、どちらかと言えば後者が真髄ではなかろうかとわたしなどは思います。
その単行本で上下巻の長編ですから、どれほど韜晦に満ちた作品であろうかと、そう覚悟して読み始めたとしても、これはもうしょうがないですよね。ねっ。
ところがどっこい、この作品は「傑作」だったのです。すごい作品でした。なんか設定とかを説明してもぜったい魅力は伝わらないと思うのでそういうのは省きます。
しかしなんでこんな話を思いつけるのかなー。アイデアも、ストーリの展開の膨らませかた*2といい、その収集のつけ方といい、話作りの巧さが凄すぎます。
そして、時間の止まった、というか時間次元が消された世界*3で、可能事象を選択する能力によって"疑動"するとかそういうネタが今回のメインディッシュかなと思いきや、もうそんなのほんのおまけなんですよね。刺身のツマです、ツマ。
なんか「愛」とかいうのが中心的なテーゼのひとつなんですぜ。なんでしょう、このありえなさ。もちろん他の作品でも恋愛や家族愛にまつわる話が皆無ではない……と思ったけどあんまりないな……けど、それにしてもちょっと頭でっかちな、言葉で描写しただけの、下半身のない「愛」しか書いてなかたのに、この作品の登場人物の語る苦悩には、なにやら情感が込もっていて、あきらかに他の作品とは異質な香りを放っています。
傑作でした。